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メイプルストーリーを題材にした小説サイト


by maple_novel
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011


 サウスペリとアムホストの間には、森が広がっていた。森だけでなく、山や川、はては切り立った崖まである始末で、とても一般交通としては利用できそうにない。その森のほぼ中央にマイとシェイニスが住まう小屋が建てられているのだが、それは単純にマイの世俗嫌いのためだ。しかし、今はその世俗嫌いが大いに役立とうとしている。ピオが言った材料の在り処というのは、とても森道に不慣れな人間が行き来できるような場所ではなく、日ごろから山川草木の真っ只中でたくましい生活を営んでいるマイとシェイでなければ、とうてい日帰りの往復は不可能だろう。
 おおよその場所をシェイから説明されたマイは、その地点に明確な心当たりがあるのか、迷いのない足取りで生い茂る樹木を払いのけて前進していった。
「さっさと来なさい。うたうたしてると、日が暮れるわよ」
 はじめのうちは辛うじてマイについて行けたものの、徐々に間隔が開いてきたシェイに向かって、叱咤を飛ばす。
 シェイは足元によってきたスポアを蹴り払う。ひっくり返ったスポアが、黄色い胞子を飛ばして地団駄を踏む。それには一瞥をくれただけで、先を急ごうと試みる。マイが先に通ったことによって多少は歩みが楽なものの、意識だけでは進行速度をあげられそうにない。
「ま、マイさん。あんまり先を行かないでくださいよ。こんなところではぐれたら、僕は確実に迷子なんですから」
「迷子くらいでなによ。小さな子でも迷子くらいで死にはしないわよ。気合で乗り越えなさい」
「いや、迷子というのには語弊があります。迷子ではありません、遭難ですよ、こんなところで道に迷ったら」
「もともと道なんてないんだから、迷うも何もないでしょう。目的地っぽい方向に進んでいけば、そのうちたどり着くわよ」
「え。まさか、ここまでの道筋も適当ですか」
「適当じゃないわよ。おおよその見当はつけて歩いてるわよ」
 シェイは脱力してうな垂れた。今更ながらにマイの野生ぶりを理解する。危機感という感覚を小屋に置き忘れてきたとしか思えない。いや、小屋にでもあるのなら、まだ良い。帰れば解決するからだ。しかし、そんなことで解決はしない。残念ながら、シェイはこれまでの共存生活で、それを悟っていた。もともと、マイの危機感など、どこにもないのだから。
「それなら、どうしてピオさんが教えてくださったサウスペリからの道筋にしなかったんですか。場所を聞くなり、どんどんと森の中を突っ切ろうとするなんて、てっきりしっかりと覚えがあるものかと」
「あるわよ」
「はい?」
 しれっと言ってのけるマイに、シェイは怪訝な顔をする。
「だって、この森はわたしの遊び場だったんだから。場所くらい、おおまかにばっちり把握できるわよ」
「……おおまかとばっちりは、いっしょに使う言葉じゃないと思いますが」
「四の五の言うなら、さっさと来なさい。野宿なんてまっぴらよ」
 そう言い残し、また先へと進んでしまう。ガサガサと落ち葉を踏みしめる音が、次第に遠のいていく。その音に縋るかのように、シェイは一歩一歩を急がせた。



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by maple_novel | 2006-02-20 01:24 | 小説